オリンピックの日本選手のメダルラッシュで、日本中が湧いていますね。アスリートがひたむきに頑張る姿は胸を打ちます。

我々見ている方は、テレビやパソコンの前で楽な格好で見ているだけですが、闘う選手は物凄いプレッシャー、緊張の中で大変です。本来、遊びであったスポーツのプレイが、彼らの場合は人生をかけた大勝負になっている上、国家や国民の期待まで背負っている立場になっているわけですもんね。

こういう姿を見ると、いつも「なぜこうまでして人は頑張るのだろう、自分をギリギリの所へ追い込んでまで鍛えようとするのだろう」という想いにとらわれます。

自分自身も選手の頃はそうでしたが、毎日毎日、もう苦しいだけの道場やジムでの稽古、それ以外にトレーニングジムでのフィジカルトレーニングや屋外での坂道ダッシュなど、正直嫌で嫌でしょうがない想いもありながら、それでも自分の意志でそれに取り組む自分が不思議で仕方ないという事がありました。

職場の仲間は仕事が終わったら、自由に自分の時間を楽しんでいるのに、自分はこれから道場へ行って先生や先輩に怒られながら苦しむ時間が待っている・・・。「ああ、もう嫌や、気が狂いそうや」、そんな毎日でした。才能あふれ、スタッフにも期待され、充実した環境で取り組める一部の選手以外はみんなこんな感じだと思います。勿論、そういった素質ある選手には、僕ら凡人には分からない苦しみがあるのも分かるのですが。

最近、東京大学薬学部の池谷教授監修の本「脳と心のしくみ」を読んでいて、なるほどと思う所があったので引用して、少し書いてみたいと思います。

実態がよく分からない自我
 
なぜヒトは「興味の対象を自分自身にも向ける」様になったのか?
正確には分かっていない。脳の構造において、ヒトと他の動物との違いは、大脳皮質が大きいこと。この発達のお陰で、ヒトが自分というモノを考える様になったのは間違いないだろう。
 
私は特に、空間探索が大きなカギを握っていると感じている。
動物達が、「自分を外から眺める場面」も、空間探索だからだ。
 
エサを求めて周辺を歩き回ると、次第にその空間の地図が脳内に出来る。専門用語ではこれを「認知地図」と呼ぶ。地図とは、いわば俯瞰図。
「世界の中で自分が今、どこにいるのか」を把握する能力である。
 
いってみれば、自分の体の外側に「視点」を置いて、自分を眺めている。
 
これが上手に出来る生物ほど、エサにありつける可能性が高いのだ。
同時に、これは「自分にベクトルを向ける」最初の一歩となる。
 
これを進化的に推し進めたものが、「自分への探求心」なのではないか?

東京大学薬学部 池谷裕二教授

この「探求心」が選手をあれだけ頑張らせているものだと思いますが、これは「自我」というものから生まれている。自分を自分だと思う心、感覚。

動物にはこの感覚がない、人間にだけあるものだとしたら、それはなぜなんでしょうね。自分を客観的に見られるから、今、居る空間の中で自分を思う所へと運べる。それは具体的な空間、場所という意味だけでなく、もっと抽象的なもの、スポーツの上達や仕事での成功や、人格の向上みたいなものにも当てはまる。

オリンピック出たい、というのもこれですよね。自分の現在の立ち位置を把握して、そこから日本国内の大会、そして世界レベルの大会の中での地図に当てはめて、自分の居る位置を向上させていく。

自分を外から見て、その実力や立場を、他者や環境の中で冷静に把握していく。足りない所をしっかりと見極めて、埋める作業を行っていく。

それは、「なりたい自分」になるための地図を自分で描いていく作業なのだと思います。

ウチの道場は、30歳以上の挑戦を謳っていますが、道場生の皆さんはオリンピック選手ではないけれど、心の中で同じ作業をしているんやなと日々、稽古を見ていて感じます。

社会人になって、もうええ歳になって落ち着いたらええのに、なんで汗まみれになって空手の稽古なんかしてるのか?

それは一流アスリートと同じで、「なりたい自分」を目指しているんですよね。あるいは、子供の頃、若い青春時代に「なりたかった自分」を追い求めている。

そこから逃げたり、その想いにフタをして生きている人が多い中で、わざわざ苦しい想いをして真っ正直にその想いに立ち向かっている道場生を見ていると、いつも感動を与えられます。

テレビの前で、今、多くの人は一流アスリートから感動を与えられていると思うのですが、僕は一年中、いつもその感動を与えて貰っているんですよね。幸せやなっていつも思っています、本当に。

投稿者プロフィール

岡本
岡本マーシャルアーツアカデミー代表・空手クラス担当
東京の大手フルコンタクト空手の道場で長年修行。
空手修行の一環としてボクシングやキックボクシングも学び、プロライセンス取得・試合も経験。
道場での指導の傍ら、ボクシングトレーナー、フィジカルトレーナーとしても活動しています。
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