誰もが認める一流の指導者、野村克也監督。

僕も非常に尊敬している人なのですが、とにかく頭の使い方が一般的な指導者とは全く違うな、と著書を読む度に思います。

その野村監督(今は監督ではありませんが、敬意を込めてそう呼ばせて下さい)、世間では「野村再生工場」と呼ばれていましたが、ご自分では「気付かせ屋」だと思っておられたそうです。以下、『野村の「眼」―弱者の戦い』よりいくつか引用。

長く監督をやってきて、この仕事は「気付かせ屋」だと感じる事がよくある。プロに入って来るような選手は、みな一般の人達には考えられないような優れた能力、素質を持っている。だからといって、全員が長嶋やイチローになれるわけではない。
優れた素質を持っていながら、その使い方が間違っていたり、自分が向いているのは別の分野なのに方向違いの努力をしている選手は少なくない。

これは僕がトレーニングや空手を指導している中でも、よくありますね。向いていない技や動きを一生懸命やっている。自分なりの理想を持つのはいい事だけれど、それが全く向いていないとムダになってしまうし、ずっと気が付けないと、その努力をしている内にどんどん時間が経ち、歳をとってしまうだけっていう場合もある。

そういう時に、いいアドバイスをしてくれる人がいたら、パッと方向を切り換えられる。
そんな実例を語っておられます。

山内という、シュートを武器に活躍していた選手がいた。実績もあったが、肘を故障して速い球を投げられなくなっていた。それなのに本人は一生懸命練習して、力みまくってかつてのような速球を投げようとしている。

自己分析が全く出来ていない上に、無駄な努力をしているように私には見えた。

「お前は何に挑戦しているんだ。150キロのストレートを投げたいのか。そのストレートで三振が取りたいのか。だとしたら諦めろ。お前には、もう150キロは投げられない」

シビアに現実を突きつける監督。 不満そうに聞いている山内選手に監督は続けて言います。

「打たせて取るという事を少しは考えろ。アウトは三振ばかりで取るものじゃないぞ」

「お前の持ち球から言ったら、ゴロで打ち取るのが一番向いている。外角の低め、低めにボールを集めてゴロを打たせる投球をやってみろ。ストレートがナチュラルに変化(スライド)する、それを武器にしろ」

そして、一つの試合を実験台にした。相手はゴロで打ち取るには向いたチームだった。山内は素直に私のリードに従った。結果は完投シャットアウト。

一番速いストレートでも、せいぜい137、8キロだったろう。それでも丁寧にコースを突いてゆけば、完封する事が出来る。山内にとっては大きな発見だったに違いない。

この後も立て続けに好投した山内は、すっかり自信をつけ、なんと20勝を挙げてしまった。

指導者として、めちゃくちゃカッコイイですよね。
野村監督は「意識改革」の重要性を説かれますが、人間って意識が変わるとこれだけ変化出来る。

一般に「気付けない人間は駄目だ」とよく言われますし、確かにそうなんですが、指導する側が「気付かせる能力」を持っているとこれだけ変わってしまう。

この山内選手にとって、野村監督との出会いは本当に大きいですよね。他の一般的な指導をする人だったら、こうはいかなかったでしょうし、故障を引きずってそのまま引退という可能性が高かったのだと思う。

野村監督はこういうエピソードを多く持っておられますが、僕も指導者としてこういう人になりたいな、と憧れます。

壊れた、終わった、という扱いをされている人でも、もう一度スポットライトを浴びる場面に連れて行けるような指導力、「気付かせる力」を持ちたいですね~。

投稿者プロフィール

岡本マーシャルアーツアカデミー代表・空手クラス担当
東京の大手フルコンタクト空手の道場で長年修行。
空手修行の一環としてボクシングやキックボクシングも学び、プロライセンス取得・試合も経験。
道場での指導の傍ら、ボクシングトレーナー、フィジカルトレーナーとしても活動しています。
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